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遠隔画像診断した疾患;脾腫(splenomegaly)

  • 本邦では門脈圧亢進症によるものが最も多い:肝の形態および門脈側副路の描出により診断可能
  • 原因検索には臨床所見,臨床データが重要

原因

  1. 還流障害:肝硬変、肝線維症、特発性日本住血吸虫 症、Budd-Chiali、門脈血栓など
  2. 血液疾患:慢性骨髄性白血病、悪性リンパ腫(腫瘍を形成せずにびまん性に浸潤 し、 脾腫のみをきたす場合と、単発または複数の脾内massをきたす場合がある )、骨髄線維症(髄外造血)、溶血性貧血(球状赤血球症、マクログロブリン血症,真性多血症:溶血性貧血では胆石を伴うことが多い)
  3. 感染症:マラリア、脾結核、伝染性単核症など
  4. 蓄積病:Gaucher,Nieman-Pick,アミロイドー シスなど
  5. その他 :膠原病、Hurlerなど

脾腫の定義

  • 100~250gの範囲(平均150g)で12×7×4cmくらいの大きさであるが個体差が大きい
  • 一般的に500g以下は軽度、500 -1000 gは中等度、1000 g 以上を高度
  • 一般に脾下端は肝下端をこえず、右側は中腋下腺をこえない
  • 脾臓は腹膜臓器であるが、腫大し高腹膜臓器である腎臓を前方に偏位させることもある
  • echoではspleen index axb≦40と面積を出す方法、また、直径10cmを腫大の境界とする方法が一般的

臨床所見

  • 腹部膨満感
  • 上腹部圧迫感
  • 脾機能亢進症状
  • 原因疾患の症状(感染症:発熱, 肝硬変 腹水など)

画像検査とその選択

超音波 :脾の形態、大きさ、脾腫瘤病変の有無

CT :腫大した脾内に多発結節がみられた場合、微小膿瘍(真菌、結核など)、サルコイドーシス、悪性リンパ腫 、転移など

MRI :門脈圧充進症では10%にGamna-Gandy bodies(ヘモジデリンの沈着)を認める

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遠隔画像診断した疾患:類骨骨腫/骨芽細胞腫(osteoidosteoma/osteoblastoma)

類骨骨腫と骨芽細胞腫の病理組織像は同一で血管に富む未熟な骨および類骨組織を有するnidusと、その周囲の反応性の骨形成を特徴とする良性腫湯である。

nidusが2cm以下を類骨腫、 2cm以上を骨芽細胞腫とすることが多く、骨芽細胞腫では増殖傾向がある。

骨芽細胞腫には3つのパターン

  • ABC類似。
  • osteoid osteoma類似:ただし、nidusが大きい。2cm以上。このタイプの鑑別はBrodie膿瘍。
  • 著明な骨破壊と骨新生が混在し、周囲に腫瘤を形成して進展するもの。:骨肉腫やmetastasisなどのmalignancy

 

  • 類骨骨腫の好発年齢は5 ~25歳で男性に多い。
  • 大腿骨、脛骨などの長管骨骨幹部、骨幹端に好発し,約10%で脊椎に発生する。
  • 脊椎では腰椎の後方成分に多い。
  • ほかに手足の骨などさまざまな部位に生じ、関節内/骨端に生じた場合は関節痛、可動域制限、関節液貯留などの関節炎に類似した症状を呈する。
  • 骨芽細胞腫は10~30歳代の男性に多く 、50%は脊椎椎体にみられ、大腿骨や脛骨にもみられる。

単純X線写真

  • 類円形透亮像としてnidus
  • 周囲の反応性骨硬化像を伴う
  • 関節内/骨端病変では骨肥厚がみられないことが多い。
  • nidusの中心部に密な石灰化が認められる。
  • 診断にはnidusの同定が必要であるが、小さな場合は指摘が困難なことが多く、薄いスライス厚のCTやMPR再構成像が有用である。
  • nidusの石灰化は単純写真で25%、CTで50%にみられる

nidusのMRI所見はT1強調像で中等度から低信号、T2強調像で高信号。

石灰化がある場合は、同定が困難なことが多い。周囲には多様な反応性変化を伴い、広範な場合もある。

Eur. Radiol. 1996 6 [cited 2010 Sep 6];6(3).

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遠隔画像診断した疾患:顆粒膜細胞種(granolosa cell tumor)

  • 悪性卵巣腫瘍の2~5%
  • 悪性性索問質性腫瘍の70%
  • ž若年型(juveniletype) 5%
  • —小児期から10代にかけて好発
  • 成人型(adult type) 95%,
  • —閉経期から閉経後にかけて好発
  • 本邦での頻度(2000年から2006年までの7年)悪性卵巣腫瘍18,517例中、穎粒膜細胞腫は412例で2.2%

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顆粒膜細胞種の画 像所見

  • 成人型
  • —solid and cystic pattern
  • —出血を含む嚢胞
  • 若年型
  • —充実傾向.

エストロゲン産生関連症状

  • —小児
  • 思春期早発症
  • —閉経期
  • 内膜肥厚
  • 不正性器出血
  • 乳がん発生リスク上昇

 

  • 2~50cm(平均12.5cm)と比較的大きい傾向
  • 大部分は片側性
  • 臨床進行期は,79~91%の症例がⅠ期で,95%が片側性とされる。
  • 5年生存率
  • —Ⅰ・Ⅱ期症例が95%
  • —Ⅲ・Ⅳ期症例で59%

顆粒膜細胞種の合併症

  • 血清エストラジオール値は約70%の症例で異常高値
  • 子宮内膜増殖症 50%前後
  • 子宮内膜癌 10%以下
  • 茎捻転や破裂による急性腹症例や多量の腹水例の報告もみられる
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遠隔画像診断した疾患:脾動脈瘤(splenic artery aneurysm)

  • 脾動脈瘤は比較的稀な疾患
  • 腹部内臓動脈瘤の中では約60%を占める
  • 性差4:1(女性:男性)
  • 真性瘤破裂の頻度:3~10%
  • 死亡率:10~25%
  • 特に妊娠中や門脈圧亢進症合併例は高率
  • 仮性瘤は大きさに関係なく破裂しやすく, 致死率も高い

脾動脈瘤の成因

  • Group Ⅰ-動脈の形成不全
  • Group Ⅱ-脾腫を伴う門脈圧亢進症
  • Group Ⅲ-動脈の限局性炎症
  • Group Ⅳ-女性の原因不明例(高血圧,動脈硬化,多産が原因と考えられている)
  • Group Ⅴ-男性の原因不明例(高血圧,動脈硬化と考えられている)

60例の報告では,I型8例,Ⅱ型6例,Ⅲ型3例,IV型35例,Ⅴ型8例でIV型が最も多い

Stanley JC, Surgery 76 : 898―909, 1974

脾動脈の解剖

  • splenic arteryは胃や膵臓の血流も供給する
  • 脾門部で,2~3本の terminal branchに分岐する(2本:80%,3本:20%)
  • terminal branchは4-6本のsegmental intrasplenic branchに分岐する
  • superior polar arteryは通常 distal splenic arteryから分岐する
  • その他,superior terminal artery
  • inferior polar artery は通常left gastroepiploic arteryから分岐する
  • その他,distal splenic artery もしくはinferior terminal artery
  • splenic arteryは多くの膵体尾部への branches をもつ
  • dorsal pancreatic artery,greater pancreatic artery
  • splenic arteryのmiddle segmentから分岐する
  • short gastric branches
  • terminal branchから分岐することが多い.その他,left gastroepiploic artery
  • 非常に細長い血管で2-10本
  • left gastroepiploic branch
  • 解剖例では72%でdistal splenic arteryから分岐していた。(その他、inferior terminal branchもしくはその分枝)

RadioGraphics 2005; 25:S191–S211

治療の適応

  • 仮性瘤
  • 瘤径20mm以上or増大傾向のある動脈瘤
  • 門脈圧亢進症のある症例
  • 肝移植を計画中の症例
  • 妊娠中あるいは妊娠希望のある女性

様々な治療法

  • 開腹での脾動脈結紮または切断:1.3%の死亡率,合併症の97%の発生率

Trastek VF et al. World Journal of Surgery. 1985 Jun 1;9(3):378-383.

  • 血管内治療法の成功率:85%

McDermott VG et al.Radiology. 1994 Jul 1;17(4):179-184.

  • McDermott et al.ステント留置を含む血管内治療法の成功率92%

Guillon R et al. CardioVascular and Interventional Radiology. 2003 Jun 1;26(3):256-260.

塞栓物質の選択

  • 金属コイル
  • 一般にはコイルでの塞栓が第一選択
  • 離脱式バルーン
  • NBCAなどの不活性物質
  • 膵内小分枝閉塞による膵炎を併発する可能性があるため, 原則使用しない
  • 破裂緊急例や出血例では状況に応じ使用する
  • セルフオームスポンジ(GS)

packing法

  • isolation法のできない瘤径20mm以下の動脈瘤

isolation法

  • 瘤径20mmを超えるものや多発例

stent-graft挿入

  • 脾血流の温存ができ合併症の低減が図れる
  • 腹腔動脈の分岐角度が急峻な場合、屈曲・蛇行した脾動脈にステントを挿入し留置することは困難

合併症

  • 脾梗塞
  • 塞栓後症候群:発熱, WBC↑, 疼痛
  • 脾梗塞なくても, 脾血流の低下により, 若干の疼痛と熱は回避不能
  • 膵炎
  • 脾膿瘍
  • 胸水

脾梗塞

  • 脾門部動脈瘤術後の部分梗塞は, 不可避の合併症と考えられている
  • 脾内枝を全て塞栓すると, 完全脾梗塞をおこし脾膿瘍, 脾破裂, 敗血症, 脾静脈血栓症, 気管支肺炎などの合併症のriskが上昇する
  • 左胃大網動脈または短胃動脈から生じている側副循環を考慮して, 広範囲な脾梗塞を回避する
  • 動物実験では, 脾切除術後に感染に対する免疫機能の保持には, 脾実質を30%残存させる必要があることが示されている

Coil JA et al. J. Surg. Res. 1980 Jan ;28(1):18-22.

  • 術中, 前後の抗生剤の投与が推奨される
  • 広域スペクトル抗生剤を1週間投与

術後の評価

  • 造影CT
  • 動脈瘤はmetal artifactの為評価困難
  • Doppler echo, MRAまたはDSAが有用
  • 合併症の評価に有用
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遠隔画像診断した疾患:閉鎖孔ヘルニア(Obturator hernia)

  • •閉鎖孔の外上方で、後腹膜腔から大腿に向けて閉鎖膜を貫いて走行している閉鎖管を通って大腿内側に脱出するもの。
  • 60歳以上の高齢者が80%
  • 男女比は 1:20~25 と圧倒的に女性に多い。(やせ型の多産婦に多い。)
  • 嵌頓臓器はほとんどが、回盲弁から100cm以内の小腸。
  • 一般の腸閉塞のうち閉鎖孔ヘルニアが原因となることは0.4%と非常に稀。
  • ヘルニアは大腿の深部に突出するので、通常腫瘤として気づかれることはほとんどない。
  • ヘルニア門が小さく強靭であるため嵌頓を起こしやすく、嵌頓によって初めて症状が起こる。
  • 小腸の嵌頓型は50~78%が、腸管壁の一部が嵌頓する Richter 型嵌頓。
  • このため初期には不完全腸閉塞が生じて腹痛・嘔吐が出ても、自然環納が起こり症状が改善してしまうことがある。
  • 自然環納が起こらずに時間が経過すると完全腸閉塞に進展する。
  • 閉鎖管内を走行する閉鎖神経が圧迫されて、膝から大腿内側、時に股関節部に痛みが出現することがある。痛みは大腿を伸展・外転・外旋させたり、咳をさせると増強する(Howship-Rombergsign)。
  • 開腹歴のない高齢女性の腸閉塞では、大腸ガンによるものと、ヘルニアを考える。
  • 鼠径/大腿ヘルニアは身体所見で診断できる。閉鎖孔ヘルニアは、骨盤の閉鎖孔に腸管が嵌頓し腸閉塞で発症する。
  • 高齢で、低身長の痩せ形女性に多い。数年前までは、外表変化が全くないためベッドサイドで診断することは不可能とされてきたが、近年、CT で容易に診断できるようになり、さらに最近では、US による術前診断率が向上してきた。
  • 腸閉塞では、腹部の診察だけで済ませがちであるが、下着を下ろして、鼠径部のUS を行うことが必要である。鼠径靭帯のやや尾側で、外閉鎖筋と、恥骨筋の間に嵌頓腸管が見える。
  • 直腸診で圧痛のある閉鎖孔ヘルニアを蝕知できる。

Howship-Romberg 症状

•閉鎖神経圧迫症状による大腿内側におよぶ疼痛。

画像所見

•閉鎖孔外側に、径約1-2cm大の造影効果を伴わない腫瘤影を認める。

腫瘤は骨盤内の腸管と連続し、口側腸管の著明な拡張を認める。•

治療

  • ヘルニア環納・修復術、壊死腸管切除術。
  • 最近は腹腔鏡下手術による腹腔外からのアプローチが一般的

閉鎖孔(obturator foramen)

  • 骨盤腔の坐骨、恥骨と腸骨に囲まれる三角形の空隙
  • 骨盤腹膜、内閉鎖筋と外閉鎖筋で閉じられている

Richter(型)ヘルニア

  • 腸管壁の一部(通常は腸間膜対側)のみが嵌頓・絞扼する特殊なヘルニア
  • 腸壁ヘルニアとも呼ばれる
  • Scarpaの法則
  • 部位は大腿ヘルニアが最も多く(大腿ヘルニア軟頓の10-33%)、腸管は回腸が多い

Scarpaの法則

  • 腸壁全周の2/3以上が嵌頓すると完全腸閉塞を起こす
  • 1/3だけでは腸閉塞を起こさず鼠径部痛や大腿部痛だけを訴えることがある
  • 半周程度では不完全閉塞を起こす