- 脾動脈瘤は比較的稀な疾患
- 腹部内臓動脈瘤の中では約60%を占める
- 性差4:1(女性:男性)
- 真性瘤破裂の頻度:3~10%
- 死亡率:10~25%
- 特に妊娠中や門脈圧亢進症合併例は高率
- 仮性瘤は大きさに関係なく破裂しやすく, 致死率も高い
脾動脈瘤の成因
- Group Ⅰ-動脈の形成不全
- Group Ⅱ-脾腫を伴う門脈圧亢進症
- Group Ⅲ-動脈の限局性炎症
- Group Ⅳ-女性の原因不明例(高血圧,動脈硬化,多産が原因と考えられている)
- Group Ⅴ-男性の原因不明例(高血圧,動脈硬化と考えられている)
60例の報告では,I型8例,Ⅱ型6例,Ⅲ型3例,IV型35例,Ⅴ型8例でIV型が最も多い
Stanley JC, Surgery 76 : 898―909, 1974
脾動脈の解剖
- splenic arteryは胃や膵臓の血流も供給する
- 脾門部で,2~3本の terminal branchに分岐する(2本:80%,3本:20%)
- terminal branchは4-6本のsegmental intrasplenic branchに分岐する
- —
- superior polar arteryは通常 distal splenic arteryから分岐する
- その他,superior terminal artery
- inferior polar artery は通常left gastroepiploic arteryから分岐する
- その他,distal splenic artery もしくはinferior terminal artery
- splenic arteryは多くの膵体尾部への branches をもつ
- dorsal pancreatic artery,greater pancreatic artery
- splenic arteryのmiddle segmentから分岐する
- —
- short gastric branches
- terminal branchから分岐することが多い.その他,left gastroepiploic artery
- 非常に細長い血管で2-10本
- left gastroepiploic branch
- 解剖例では72%でdistal splenic arteryから分岐していた。(その他、inferior terminal branchもしくはその分枝)
RadioGraphics 2005; 25:S191–S211
治療の適応
- 仮性瘤
- 瘤径20mm以上or増大傾向のある動脈瘤
- 門脈圧亢進症のある症例
- 肝移植を計画中の症例
- 妊娠中あるいは妊娠希望のある女性
様々な治療法
- 開腹での脾動脈結紮または切断:1.3%の死亡率,合併症の97%の発生率
Trastek VF et al. World Journal of Surgery. 1985 Jun 1;9(3):378-383.
McDermott VG et al.Radiology. 1994 Jul 1;17(4):179-184.
- McDermott et al.ステント留置を含む血管内治療法の成功率92%
Guillon R et al. CardioVascular and Interventional Radiology. 2003 Jun 1;26(3):256-260.
塞栓物質の選択
- 金属コイル
- 一般にはコイルでの塞栓が第一選択
- 離脱式バルーン
- NBCAなどの不活性物質
- 膵内小分枝閉塞による膵炎を併発する可能性があるため, 原則使用しない
- 破裂緊急例や出血例では状況に応じ使用する
- セルフオームスポンジ(GS)
packing法
- isolation法のできない瘤径20mm以下の動脈瘤
isolation法
stent-graft挿入
- 脾血流の温存ができ合併症の低減が図れる
- 腹腔動脈の分岐角度が急峻な場合、屈曲・蛇行した脾動脈にステントを挿入し留置することは困難
合併症
- 脾梗塞
- 塞栓後症候群:発熱, WBC↑, 疼痛
- 脾梗塞なくても, 脾血流の低下により, 若干の疼痛と熱は回避不能
- 膵炎
- 脾膿瘍
- 胸水
脾梗塞
- 脾門部動脈瘤術後の部分梗塞は, 不可避の合併症と考えられている
- 脾内枝を全て塞栓すると, 完全脾梗塞をおこし脾膿瘍, 脾破裂, 敗血症, 脾静脈血栓症, 気管支肺炎などの合併症のriskが上昇する
- 左胃大網動脈または短胃動脈から生じている側副循環を考慮して, 広範囲な脾梗塞を回避する
- 動物実験では, 脾切除術後に感染に対する免疫機能の保持には, 脾実質を30%残存させる必要があることが示されている
Coil JA et al. J. Surg. Res. 1980 Jan ;28(1):18-22.
- 術中, 前後の抗生剤の投与が推奨される
- 広域スペクトル抗生剤を1週間投与
術後の評価
- 造影CT
- 動脈瘤はmetal artifactの為評価困難
- Doppler echo, MRAまたはDSAが有用
- 合併症の評価に有用