タグ別アーカイブ: 読影した疾患

fuyu68

遠隔画像診断した症例:卵巣小細胞癌(Ovarian small cell carcinoma of pulmonary type)

主に小円形細胞から成る卵巣の腫瘍は、比較的まれである。

大きく分けると2つのtypeがある。

  • Ovarian small cell carcinoma of hypercalcemic type
    若い女性に発生する高度悪性卵巣腫瘍で、高カルシウム血症を伴うことが特徴である。
  • A neuroendocrine small cell carcinoma, so-called small cell carcinoma of pulmonary type
    閉経後の女性に見られ、肺でみられる小細胞癌と同様の腫瘍。より頻度が少ない。

smallsellCa

Ovarian small cell carcinoma of pulmonary type

Neuroendocrine small cell carcinoma(肺の小細胞癌と同一)は卵巣にも発生する。
WHO分類では肺型の卵巣の小細胞癌(ovarian small cell carcinoma of pulmonary type)と呼ばれる。
11 cases のreportと症例報告が散見されるのみで、非常に稀な腫瘍である。
bilateral 6例 unilateral 5例

VIII. 起原不明の腫瘍 tumours of uncertain origin

小細胞癌 Small cell carcinoma
ウォルフ管起原と考えられる腫瘍 Tumour of probable wolffian origin
類肝細胞癌 Hepatoid carcinoma
扁平上皮癌 Squamous cell carcinoma

                                                                    卵巣腫瘍の組織分類(卵巣腫瘍取扱い規約,1990年)

VI. Miscellaneous tumors その他の腫瘍

Small cellcarcinoma , hypercalcaemic type
Small cellcarcinoma , pulmonary type
Large cell neuroendocrine carcinoma
Hepatoid carcinoma
Primary ovarian mesothelioma
Wilms tumour
Gestational choriocarcinoma
Hydatidiform mole
Adenoid cystic carcinoma
Basal cell tumour
Ovarian wolffian tumour
Paraganglioma
Myxoma
Soft tissue tumor not specific to the ovary
Others

卵巣腫瘍の組織分類(WHO分類,2003年)

病理所見(Small cell carcinoma , pulmonary type)

  • 通常、solid tumorとしてみられ、嚢胞変性や、出血、壊死がみられることもある。
  • N/C比が高く、クロマチンに富んだ核を持つ小~中型の細胞。
  • 大量の壊死と核濃縮と共に、Nuclear moldingはしばしば存在する。
  • 組織学的特徴が肺小細胞癌と同一である。
  • Surface epithelial-stromal tumor(endometrioid adenocarcinoma や Brenner tumor など)の構成要素を持っていることが多い。
  • 報告が少なく、特徴的な免疫染色所見は不明であるが、anticytokeratin antibodies, EMA, and neuroendocrine markersに陽性になる。

                                                                   Eichhorn JH. Am J Surg Pathol 1992; 16: 926–938.

予後と治療

非常にaggressiveな腫瘍で、長期の追跡が可能であった7例の患者のうちの5例は、1~13ヵ月で死亡した。
最適治療はわかっていない、しかし、通常の卵巣癌の化学療法には抵抗性であり、肺小細胞癌の化学療法療法がより適当だと示唆された。

Eichhorn JH. Am J Surg Pathol 1992; 16: 926–938.

まとめ

Ovarian small cell carcinoma of pulmonary typeの画像所見の報告はみられていないが、組織学的には、肺小細胞癌と同様であるため、同様の画像所見、生物学的な振る舞いが予想される。
本症例の多発するリンパ節腫大や内部の出血壊死などは、特徴的な所見である可能性がある。

fuyu59

遠隔画像診断した疾患:リンパ脈管筋腫症(Lymphangioleiomyomatosis;LAM)

概念・定義

  • 1940年前後から記載され始め、Frack ら (1968) により初めて pulmonary lymphangiomyomatosis という言葉が用いられる
  • Corrin ら (1975) により 28 例の臨床病理学的特徴がまとめられた。
  • Carrington ら (1977) が本疾患の生理学的、病理学的、画像の各所見の関連性を詳細に検討した際から以降、lymphangiomyomatosis 、 lymphangioleiomyomatosis ともに用いられ続けている。
  • 本邦においては、山中、斎木 (1970) が 2 例の剖検例と 1 例の開胸肺生検例を検討し、び慢性過誤腫性肺脈管筋腫症として報告したのが最初。
  • 症例の集積にともない、後腹膜や骨盤腔リンパ節病変が主体で肺病変が軽微である症例の存在も認識されるようになり、「肺」を病名から除いてリンパ脈管筋腫症 lymphangioleiomyomatosis という病名で包括して呼ばれるようになってきている。
  • 主として妊娠可能年齢の女性に発症する稀な疾患
  • 労作性の息切れ、血痰、咳嗽、乳麋胸水などの症状や所見を認める。
  • 自然気胸を反復することが多く、女性自然気胸の重要な基礎疾患のひとつ。
  • 常染色体性優性遺伝性疾患の結節性硬化症 tuberous sclerosis complex (TSC)では女性TSC症例の 26~30% に合併。

結節硬化症とLAM

  • 1/3は常染色体優勢疾患であるが、2/3は突然変異で生じる弧発例。

疫学

  • 稀な疾患であるため有病率や罹患率などの正確な疫学データは得られていない。
  • 日本でのLAMの有病率は100万人あたり約1.2~2.3人と推測。

病因

  • TSC の病変の一つとして LAM を合併する症例 (TSC-LAM、TSCに合併したLAM) と、TSC の臨床的特徴を認めずLAM 単独の症例 (sporadic LAM、孤発性LAM) とがある。
  • 両者とも、癌抑制遺伝子として機能する TSC 遺伝子の変異が LAM 細胞に検出され、Knudson の 2-hit 説が当てはまる癌抑制遺伝子症候群のひとつ。
  • TSC 遺伝子には TSC1 遺伝子と TSC2 遺伝子の2種類があるが、TSC-LAM 症例は TSC1 あるいは TSC2 遺伝子のどちらの異常でも発生しうるが、sporadic LAM 症例では TSC2 遺伝子異常により発生すると考えられている。
  • TSC 遺伝子異常により形質転換した LAM 細胞は、病理形態学的には癌と言える程の悪性度は示さないがリンパ節や肺に転移し、肺にはびまん性、不連続性の病変を形成する。
  • 片肺移植後のドナー肺に LAM が再発した症例では、残存するレシピエント肺からドナー肺に LAM 細胞が転移して再発したことを示唆する遺伝学的解析結果が 2 施設より報告。

症状・病態生理・診断

  • 大部分は閉経前の女性に発症
  • 平均発症年齢は 30 歳前後:思春期前の少女で発症した報告や、閉経後に他疾患の検索中に偶然診断される症例も存在。
  • TSCの場合には男性での肺 LAM 発生の報告がある。

症状・所見

  • 胸郭内病変による症状および所見
  • —労作性呼吸困難(74%)*
  • —気胸(53%)
  • —咳(32%)
  • —痰(少量)(21%)
  • —血痰(8%)
  • —乳糜胸水(7%)
  • 胸郭外病変による症状および所見
  • —乳糜腹水(5%)
  • —後腹膜腔~骨盤腔のリンパ脈管筋腫(lymphangioleiomyoma)や腎血管筋脂肪腫(renal angiomyolipoma)に伴う諸症状(腹部膨満感,腹痛・腹部違和感,下肢のリンパ浮腫,血尿など)
  • LAM 細胞の増殖により肺末梢血管やリンパ管に閉塞、うっ滞、破綻が生じ、血痰や乳糜胸腹水が生じると推測される。
  • 嚢胞は、LAM 細胞の増殖による細気管支の閉塞と air trapping 、LAM 細胞からの MMP-2やMMP-9の産生、等により形成されると推測される。
  • 気胸は、胸膜直下に生じた嚢胞が破綻することにより頻回に合併すると考えられる。
  • 聴診を含めた理学所見では、一般に特徴的なものはないが、TSC を合併している場合には、顔面の血管線維腫、爪囲線維腫、白斑などの皮膚病変を認めることもある。
  • 呼吸機能検査では、拡散能の減少、閉塞性換気障害が最も多く認められる

確定診断

  • 経気管支肺生検や胸腔鏡下肺生検が必要。
  • 乳糜胸水や腹水中にはLAM細胞クラスターが検出され、生検を行わなくてもLAMの診断が可能な場合がある。

画像所見

高分解能 CT :

  • 境界明瞭な薄壁を有する囊胞(数mm~1cm 大が多い)が,両側性,上~下肺野に,びまん性あるいは散在性に,比較的均等に,正常肺野内に認められる.
  • Multifocalmicronodular pneumocyte hyperplasia(MMPH)病変に相当して辺縁のはっきりしない小粒状影が認められることがある.
  • 気胸
  • 胸水貯留
  • 縦隔リンパ節腫大
  • 胸管の拡張

治療

  • 無治療でも肺機能や画像所見の著しい悪化を認めない症例もある。
  • プロゲステロン療法、性腺刺激ホルモン放出ホルモン療法:有効例でもいずれも乳び胸例が多い。無効であったとする報告も多い。
  • 卵巣摘除術:プロゲステロン療法に悪化する症例に対して適応を考える。
  • 外科的治療:気胸を繰り返す症例
  • 肺移植:呼吸不全に至った症例では酸素療法が必要となり、肺移植が適応

経過・予後

  • 平成15・16年に行われた日本の全国調査では、全体として10年後の生存率は76%
  • 労作性の息切れを契機にLAMと診断され症例(10年後の生存率は60%、15年後の生存率は47%)
  • 自然気胸を契機に診断された症例(10年後の生存率は89%、15年後の生存率は89%)
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遠隔画像診断した疾患:小腸悪性リンパ腫(Primary Malignant Lymphoma of the Ileum)

  • わが国ではそのほとんどがBリンパ球性
  • 男性に多い(2.2:1)
  • 好発年齢は60歳代
  • 小腸で最も多い悪性腫瘍。胃に次いで多い。
  • 穿孔、腸重積、腸閉塞などの急性腹症の形で発症。
  • 予後不良。
  • 消化管部位別の発生頻度は、胃50~65%、小腸20%、大腸10~15%
  • 小腸ではPeyer板の存在する回腸末端が好発部位であり約9割を占める。

消化管原発の悪性リンパ腫(Dawsonの診断基準)

  1. 表在性リンパ節を触れない
  2. 胸部X線にて縦隔リンパ節の腫大がない
  3. 末梢血液で白血球数と分類が正常
  4. 消化管病変が主体で、転移があっても所属リンパ節のみ
  5. 肝、脾臓にリンパ腫がない

肉眼的分類法(Woodの分類法)

  1. 動脈瘤型(aneurysmalform):粘膜下で広がり、壁肥厚した管状の分節を形成し、粘膜は腫脹する。進行すると筋層と自律神経叢に浸潤、破壊し動脈瘤様に拡張する。
  2. 狭窄型〔constrictive form):腸壁浸潤が癌様に、短い分節に起こり狭窄を生ずる。最も少ないtype。
  3. ポリープ型〔polypoid[nodular}form〕:主に粘膜下で浸潤増殖し、腸管内腔に数センチのポリープ様結節を形成し、腸重積を起こす。
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遠隔画像診断した疾患;エルシニア腸炎(Yersinia enterocolitica,Y. ent)

原因菌

  • Yersinia enterocolitica(腸炎エルシニア,Y. ent)
  • Y. pseudotuberculosis(仮性結核菌,Y. pstb)

症状

発熱、下痢、 RLQ pain

感染経路

汚染された山水や井戸水、豚肉の摂取などがある。

診断

  • 菌分離か、血清抗体価の上昇による。
  • 菌の検出には、25℃、48時間の培養と増菌法の併用が重要
  • 血清抗体価は、単血清では160倍以上、ペア血清では2倍以上の上昇を陽性とする。

治療

消化器症状が中心の場合は食事療法や対症療法が中心

約10%に川崎病の診断基準を満たす症例があり、川崎病として取り扱う。

約10%に主に急性間質性腎炎による急性腎不全を合併する。治療は支持療法が主体であり、予後は良好。

画像所見

  • enlarged mesenteric lymph nodes
  • isolated ileal wall thickening (33%)
  • colonic wall thickening (18%)
  • @visualization of entire normal appendix is necessary to differentiate from acute appendicitis

Mesenteric Adenitis

  • Appendicitis
  • Yersinia enterocolitica,Y.pseudotuberculosis
  • Crohn disease
  • Viral infection

(Radiology 1997;202:145-149)

Thick,Small Bowel Folds(Distal Bowel)

With narrowing

  • Crohn’s disease
  • Tuberculosis
  • Behcet’s disease

Without narrowing

  • Yersinia/Campylobacter
  • Salmonella
  • Lymphoma

(Fundamentals of diagnostic radiology 743)

まとめ

菌の検出のために、特殊な培養法を用いるので、疑わないと診断できない。

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遠隔画像診断した疾患;珪肺(Silicosis)

基本事項

  • 珪石のほこりを吸入し、肺の組織に炎症を生じ瘢痕を残すことによって引き起こされた呼吸器疾患。
  • 職業:サンドブラスト、採石場、採掘、ガラス吹き、製陶
  • シリカは最も頻度の高い元素であるため、あらゆる地殻に存在している
  • 一般的に結核のriskは上昇する

分類

  • 単純性塵肺症:1cm未満の微小結節、上肺野に多い。肺門/縦隔リンパ節腫大。卵殻状石灰化
  • 複雑性塵肺症:進行性塊状線維症を形成、空洞を作ることがある。
  • 急性シリカ蛋白症:肺胞蛋白症に類似
  • ※Caplan症候群:炭坑夫塵肺+関節リウマチ+壊死性小結節

画像所見

一般的特徴

  • 上肺野優位
  • 気管支血管束・強膜下に沿って小結節が分布する
  • 暴露後10-20年後に所見が見られる。

単純性塵肺症

  • 1-3mmの小結節
  • 小結節が石灰化することがある
  • 肺門・縦隔のリンパ節腫大。卵殻状石灰化

複雑性塵肺症

  • 小結節は、PMF( Progressive massive fibrosis )へと集簇する
  • 無定形の石灰化を有する場合や、空洞を形成する場合もある。
  • PMFの抹消は気腫状になる:気胸のRiskがある

急性シリカ蛋白症

  • air bronchogramを伴う蝶形陰影を示す肺蛋白症のパターン
  • 肺門縦隔リンパ節腫大
  • 数ヶ月かけて急速に進行
  • 後期に繊維化、構造改変、ブラ、気胸が生じる

肺の病変分布はリンパ流に依存する分布

  • リンパ流は呼吸のダイナミックスに影響を受けるが、最も重要な駆動力は肺動脈圧である。
  • 下肺野>>上肺野
  • 気道から進入してきた病原体や粒子
  •     ①気道粘膜の線毛運動によって喀出
  •     ②マクロファージに貪食されてリンパ系にはいり排出

Progressive massive fibrosis

珪石のほこりを吸入し、肺の組織に炎症を生じ瘢痕を残す

気管支血管束・強膜下に沿って小結節が分布する。

小結節は集簇し早期の進行性塊状線維症を形成する。

GradeⅠ PMF最大径>1.5cm <5cm
GradeⅡ PMF最大径≧5cm <10cm
GradeⅢ PMF最大径>10cm

鑑別診断

  • サルコイドーシス:職業性被爆はなく、PMFの頻度は低い
  • 結核:小結節は集簇して腫瘤を形成することはなく、小結節の密度は低い
  • Langerhans細胞組織球症:胸膜下に小結節を呈する頻度は低く、PMFはなく、膿疱を生じる。
  • 過敏性肺臓炎:胸膜下に小結節を呈する頻度は低く、PMFはなく、主として中肺野に見られる。

Multiple Pulmonary Calcifications

  • 感染   1.Histoplasmosis  2.結核 3.水痘
  • 塵肺   1.Silicosis
  • その他  1.Hypercalcemia 2.Mitral stenosis 3.Alveolar microlithiasis

症状

  • 単純性珪肺では寿命は標準的
  • 複雑性のPMFでは、呼吸不全・気胸・悪性腫瘍・結核により死亡をきたす
  • シリカ蛋白症:2-3年以内に死亡