解剖
海馬体(hippocampalformation;HF)
- 海馬体を冠状断で見ると、アンモン角と海馬台がC字型をし、間に海馬溝と歯状回が挟まれた形をしている
- 海馬傍回の前下端に位置する嗅内野から連続する海馬台は、CA1からCA4の4つの部分に分けられるアンモン角へと続く
- 海馬台の表層には浅髄板(superficial medullary lamina; SML)という有髄線維層があり、その浅髄板がなくなる部位からアンモン角が始まる
扇桃体(amygdala;Am)
- 扇桃体は海馬体の前端に近接して、下角の前上壁を成すアーモンド型の灰白質構造
- 肩桃体は主に6つの核から成るが、機能的には皮質内側扁桃体群と基底外側扁桃体に分けられる
- 扁桃体からの出力投射は、分界条(striaterminalis ;ST)と腹側扁桃体遠心路があり、前者は皮質内側扁桃体群を主な起始核としている
海馬の血管支配
- 後大脳動脈(posteriorcerebral artery)から、平均2~3 本の海馬動脈が起始し海馬の大部分を栄養
- primaryarteriesは互いに吻合し、海馬滑に沿ってanastomoticarcadeを形成する
- arcadeより多数のsecondary arteriesが分岐して海馬の大部分に分布
- 海馬の前端部は前脈絡動脈のuncal branchによって栄養されることが多い
海馬のMRI解剖
- MRIによる海馬の評価には,海馬長軸に垂直となる斜冠状断像が適する
- T1強調像やT2強調像、またSTIRも皮髄境界のコントラストが良好
側頭葉てんかんの分類
Ⅰ: 臨床発作が側頭葉の内側底部辺縁系から起始する
扁桃体海馬発作 amygdalohippocampal seizure→内側側頭葉てんかん mesial temporal lobe epilepsy
Ⅱ: 臨床発作が側頭葉外側の新皮質から起始する
外側側頭葉発作 lateral temporal seizure→外側(新皮質)側頭葉てんかんLateral neocortical temporal lobe epilepsy
内側側頭葉てんかん(mesial temporal lobe epilepsy: MTLE)
- てんかん国際分類では側頭葉てんかんは側頭葉外側の新皮質から起始する外側型と側頭葉の内側辺縁系である扁桃体海馬から起始する内側型とに二分される
- 内側側頭葉てんかん(mesial temporal lobe epilepsy: MTLE)は辺縁系を主座として起始する
- 内側側頭葉てんかんは海馬硬化症を原因とする一群の疾患群を中心とするもの
- 海馬・扁桃核切徐を行うことによって高率に軽快する
- 薬物治療より、外科治療が有意差を持って有効
- わずかながらも術後遅発性に再発を起こすものが認められているが、 術後2年までに発作をおこさなかった症例の 92%はその後も発作をみていないことから、術後早期の発作頻度が長期的な予後を決定するものと考えられる。
- 小児および高齢者の外科治療成績も、成人例とほぼ同様
- 内側側頭葉てんかん (mesial temporal lobe epilepsy, 以下 MTLE) の中でも海馬硬化(hippocampal sclerosis,HS)を伴う MTLE-HS の診断が重要であるのは、診断が確定すれば外科治療によって 60-80%の発作抑制が得られるから
- 海馬硬化は神経細胞の脱落とグリオーシスによる海馬の萎縮を特徴としている。
- 海馬のみならず嗅内皮質や海馬傍回、扁桃体にも硬化所見が認められることから内側側頭葉硬化(mesial temporal sclerosis,MTS)とも呼ばれる
- 5歳頃以前に熱性痙攣重積などの既往があり
- てんかんの家族歴を有することがある。
- 発症後にいったん緩解するが、再発すると難治に経過しやすい。
- 上腹部感覚などの前兆が単独でおこりやすい。
- 発作症状の組み合わせと出現順序に特徴がある。(前兆・無動・意識の変容・口部自動症・発作後健忘など)
- 棘波は両側性が多い。
- 海馬以外の領域(扁桃体や海馬傍回など)の硬化性変化と側頭葉の広範な機能低下を認める。
- 素材特異性の記憶障害を伴う。
- 頭蓋内脳波の発作発射は、断続的棘波 periodic spikesで始まり、緩徐に進展して一定の拡延様式をとることが多い。
- 術後、前兆が残りやすく、再発することがある。
臨床的特徴
- 側頭葉内側構造、主として海馬に発作起始を有し、いわゆる辺縁系発作という特徴的な発作症候を示す
- 臨床発作症候を詳細に聴取すれば診断が比較的容易である
- MRIで脳波と一致する側の HSの存在
MRI所見
- MRIでの HSの診断に FLAIR (fluid attenuated inversion recovery) やプロトン密度画像を用いた海馬の高信号化、T2 強調画像での萎縮や高信号化、側脳室下角の拡大の所見が有用
- てんかん患者におけるVSRAD解析やSPM5解析の結果、解析法の違いによる影響があるが、いずれも、てんかん焦点の存在する場所と考えられる左内側側頭葉に容積減少領域を示すという報告もある。
- 海馬体の内部に側脳室下角に近接して、髄液と等信号を呈する小嚢胞構造を認めることがある。胎生期海馬溝が深部に残存した遺残腔と考えられており正常変異である
発作間欠期の PETあるいは SPECT
- 焦点の部位が低代謝、低灌流を示す
- ベンゾジアゼピン受容体を可視化した iomazenil(IMZ) SPECT も有効
発作時 SPECT
- 発作焦点が発作起始時に高灌流
- 発作時SPECTは発作開始直後に静注を行なわなければならないため、難度の高い検査法であるが、診断率は高い
手術法
- 標準的側頭葉切除術、選択的扁桃体海馬切除術、前内側側頭葉切除術があり、選択的扁桃体海馬切除術が基本的な方法
海馬硬化症(hippocampalsclerosis)
- 側頭葉てんかんの原因疾患として最も多くを占める
- 扇桃核硬化など側頭葉内側病変を総称して内側側頭葉硬化と呼ぶこともある
- 病理学的には、海馬、扁桃体から海馬傍回に及ぶ神経細胞脱落、グリオーシスから成る
- 最も障害されやすい部位がCA1領域の錐体細胞層で、次いでCA3、C A4、歯状回頼粒細胞層であり、CA2、海馬台はや神経経細胞脱落、グリオーシスから免れることが多い
- 特徴的な画像所見としては、片側海馬の萎縮、T2強調像やFLAIR像での海馬領域の高信号域がある
- そのほか,海馬傍回の皮質白質境界の不鮮明化、海馬指の脳室面への凹凸の消失などが挙げられる